もちもちパンダ/

本庶佑氏、ノーベル生理学・医学賞受賞記者会見全文

10月18日に神戸市内で行われた本庶氏のノーベル生理学・医学賞受賞記者会見。今が旬の本庶氏が何を言ったか知りたいという人もいるのではないかと思い、せっかくなので会見内容の全文を起こした(神戸医療産業都市推進機構理事長としての立場での発言がほとんどだったので面白みに欠けるかもしれないが)。それにしても、この会見内容で神戸新聞は『本庶さん、研究の発信力「ツイッター出すとかではない」』という見出しで記事にしていたが、もっと他になかったのかと思った。(パンダ)

 以下は、全文会見内容。

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 本庶佑 公益財団法人神戸医療産業都市推進機構理事長あいさつ

御紹介に預かりました、神戸医療産業都市推進機構理事長の本庶でございます。ちょうど都市の構想が始まって20周年ということでこのような国際創薬シンポジウムが開催できたことを嬉しく思っています。またこの節目に、ちょうど私のノーベル賞受賞が発表されまして、このような会見の場を設けて頂きまして、大変ありがとうございます。

 私は生まれつき運がいい男です。私は富山市に住んでいたのですが、記憶に残っているのは、3歳を過ぎた頃、富山大空襲でほとんどの家が焼け落ちました。私の家も焼けたのですが、私は母親の背中におぶさって、防空壕にいた時に焼夷弾が命中したのですが、防空壕の底に水が溜まって不発であったと。そしてその時無事に生き永らえたと。もしあれが爆発していたら、私はこの世にいなかったと思います。そういうことから始まりまして、PD-1の発見も幸運の連続でした。今回、この20周年の節目に合わせるかのようにノーベル財団からお知らせを頂き、私も大変嬉しく思っています。神戸に来て2年少しですが、様々な節目に理事長として皆様とお会いできることが、本当に幸せ以外の何物でもございません。これまでも大変多くの方から暖かいお言葉を頂き、喜んでいます。

 今後、私は理事長として全体の指揮を執っていくと同時に自分の研究プロジェクトも展開していきます。明治ファーマとの協働で自己免疫疾患治療薬の開発、シスメックスと京大との三者抗がん剤の効果判定として、早く利く人と効かない人を見極める検査薬の開発の共同研究も行っています。ようやく20年経ち、いくつかの新しい再生医療が世に出てきています。井村先生(井村裕夫同機構名誉理事長)が20年かけて築かれた功績が収穫期に入るのだと思っています。推進機構として先端医療研究センターで鍋島先生(鍋島陽一同機構先端医療研究センター長、京大名誉教授)の老化研究、健康長寿を目指した基礎研究を行っています。かなり独立採算で行えていることも多く、医療イノベーション推進センターは福島雅典センター長を筆頭に、日本ナンバーワンの治験の実績があります。細胞療法研究開発センターでは細胞の医薬品化という極めて困難な事業化を行い、日本ではもちろん世界有数の拠点としても注目されています。医療のシーズから出口まで、私自身も22年かかりました。例えば自動車産業、神戸で言うなら神戸製鋼のような従来の重厚長大(産業)などとは全く違うインダストリーであり、なかなかこの長い道のりを理解してもらえないのですが、この神戸の地で事業化を次々と進めていけたらいいなと思っています。

 

記者質問

NHK ノーベル賞受科学者となられ、推進機構理事長として仕事をされていくが、改めて医療産業都市をどう引っ張っていきたいか?

 本庶 これまでやってきたことが、ノーベル賞を受けたからと言って急に変わるわけではありません。従来のアカデミアのシーズと産業界をつなげていく。あるいは産業界同志を繋げて新しいものを生み出していく。いずれも医療に関わることで、既にそういう種が今日のシンポジウムでも紹介され、出てきているので、当面今年の方針で示していることに路線変更は必要ないと思っており、地道にやっていきたいと思っています。

 

神戸新聞 神戸医療産業都市をさらに飛躍させるための課題は? それに対して理事長としてどう取り組む?

 本庶 産業都市として企業数は350社、9000人以上が集積している。弱い点としては、アカデミアがわりかし少ない。関西の研究機関は、神戸大、阪大、京大とあるが、3つの大学が距離的に離れているのが弱点ではないかと思っている。そこをどうカバーするかが長期的な課題。もうひとつ、トランスレーショナルリサーチをやる病院の仕組みがなかなか難しい。大学病院等々では比較的やりやすいが、この辺りにある病院の中で通常の医療業務をこなしながら先端的な医療開発を行っていく、そういう仕組みができていけば一段の飛躍が考えられると思っている。

 

日経新聞 理研との包括協定を結んだ。見えてきた期待や課題などは?

 本庶 理研とは近いところにあるが、意外とこれまで連携が少ないところがあったのではないかと思っている。私はもっと連携強化が望ましいと考えている。風通しがあまりよくなかった事情もあると思うので、今後一層の緊密な関係を築きたいと思っている。

 

読売TV 医療産業都市の発信力についてノーベル賞を受賞したことがどのように生きていくと考えるか? 海外にどのように評価されているか? 海外への発信にどのように取り組むか?

 本庶 発信力というのは、我々の言う発信力とマスコミの発信力では意味が違います。結局は、実績を上げることが自然と発信力になるわけです。ツイッターに出すとかそういうレベルの発信力ではない。やはり実績をやればおのずと注目も集まり、機構の動向に世界が注目してくれるようになるのが、本当の発信力だと思っています。

 

読売新聞 本庶先生自身の研究で、京大や機構での展望を。

 本庶 私は神戸では、必ず企業とのタイアップという形でやっている。ベーシックなことから始めることより展望があると感じていることを企業とやる、というスタイルでやっている。京大の場合は、大学だからベーシックで根源的なものをやっている、そういうスタイル。

 

産経新聞 関西全体として研究や応用を進める地の利はある? 関西全体がグローバルに注目されるには?

 本庶 一般論とすると、昔から言われるように“東京帝国、関西共和国”。それぞれが独自に努力して切磋琢磨するのが関西の一つのいい点。それがネガティブに働くと過当競争になるので、そういうことのバランスをとりながら良いシーズを持っているアカデミアとの連携を深める。そういうスタイルとして機構のTRI(医療イノベーション推進センター)に全国からアカデミアのシーズを集めて、というか寄ってきて治験の仕組みを導入して、データを集めてアカデミアに返す。結果、アカデミアと企業が連携していくつかのプロダクトができるという路線が出来上がっているので、これを活用して関西の良いシーズがますます結びつくという方向で考えている。

 

神戸新聞 「実績を上げることが自然に発信になる」と言ったが、これまでの実績を具体的に。また今後はどうなっていくと思われるか。

 本庶 具体的には、声の出ない人に生体機能にチタンブリッジを使って発声を回復できる、これが承認を受けていて、TRI(医療イノベーション推進センター)主導でやっている。CD34血液細胞を集めて虚血性の血管の壊死や、悪性の骨折に使う、これが承認寸前まで来ている。そのほか、脊椎損傷に関してこのシーズは札幌医大だがこれも承認申請までいっている。そういう例がいくつかある。データはいくらでも提供します。

 (会見終了)