もちもちパンダ/

介護家族の悲鳴 その5

介護+育児+配偶者の世話=「多重ケア」

 さらに私の場合、夫の世話が加わっている。こういう状態を「ケアの複合化」と相馬准教授は指摘しており、広義のダブルケアとしている。介護といっても様々なケースが複合的にあり、自分の両親だけでなく、配偶者の両親、親戚知人、病気や障害の子ども、配偶者、病気や障害のきょうだい、障害のある成人と親、非正規シングルと親のケアなど、様々なパターンのケアが重なって一気にやってくる状態のことだ。

 最近、「複合ケア―家族を襲う多重ケア」(福井県立大学看護福祉学部看護学科准教授成田光江著、創英社)という書籍が出版された。日経新聞が書評を書いていたが、恐らくこれからこの言葉は介護者側の問題としてブームになるに違いない(「多重ケア」なんて、まさしくNスペがやりそうじゃないか)。

 後出しじゃんけんだから言っても仕方ないと分かりつつ書くが、実は筆者もこのテーマでドキュメンタリー本を書けないかと思って、友人知人に色々聞いて回っていたところだった。自分自身が育児と介護のダブルケアにつらさを感じていたし、周囲にも自分の両親と配偶者の両親の4人を同時に介護している友人がいたり、働きたくても親の介護と病気の子どもの世話で働けない母親がいたりするからだ。しかもそういう友人知人は少数ではない、それぞれが「実は・・・」と語ってくれる内情の大変さには驚かされることばかりだ。これは何か大変なことが社会に起こっているに違いない、と私が感じていたのが約1年半前。「多重ケア社会」という言葉を夫が思いついてくれ、彼と話しながらこのテーマを取材したいと思っていた。完全に地域包括ケアが見落としているものだ、と直感していた。

 その矢先に、相馬准教授の「ダブルケア」という言葉を聞き、講演会も拝聴することができた。「よかった、既に研究者がやってくれていた」と思った。さらに成田准教授の書籍「複合ケア」も出たことだから、これからもっと介護する側の問題は話題に上がるに違いない。

 ひとつ付け加えておきたい。私がダブルケアに加えて、うつ病の夫の世話までしているというのはレアケースではないか、と言われるかもしれないということだ。しかし、うつ病を含む精神疾患は、元々日本の4大疾病だった「がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病」に2001年度から新しく加えられ、日本の5大疾病の一つとされている。国内にうつ病を含む気分障害の患者数は約112万人(厚生労働省平成26年「患者調査」)と、年々増え続けており、うつによる労災認定を受けた人は2016年度では過去最多の498人(厚労省平成28年度「過労死等の労災補償状況」)。精神疾患による労災申請をする人も年々増えており、2016年度には1500人以上が労災を申請している。15年前の2001年と比べると約6倍にも増えているのだ(厚労省平成13年度「精神障害等の労災補償状況」)。うつ病は日本人が罹患しやすい典型的な病気の一つと言っていいほどの状況になっている。この数字から見れば、夫がうつで休職するのは、今の社会で決してめずらしいケースではない。それどころか、そういう人はさらに増えていくのではないか(ある大企業健保で働く友人が「健保の8割はうつに使われている。メタボよりうつの方がよっぽど問題」と話してくれたこともあった)。

 私が高齢出産であることも、全くめずらしくない。第一子を産む母親の年齢は、2016年には30.7歳と30歳を過ぎて初めて子どもを産む母親が半分以上という時代だ(調査の始まった1975年では25.7歳だった)。35歳以上で第一子を出産する母親は21.6%、40歳以上は4.6%と高齢出産が当たり前な状況になっている(厚労省平成28年度調べ)。ちなみに筆者は50代で産んだ母親に出会ったこともある(子どもが成人する時の年齢を考えると申し訳ないがぞっとする)。高齢で出産すればするほど、育児の大変な時期と介護の時期が重なりやすくなるのは当たり前で、ダブルケア状態に陥りやすくなる。

 加えて日本には、共働きで核家族という世帯が多くなっている。三世代世帯が約6%であるのに対し、核家族は約60%、単独世帯は約27%(厚労省2018年国民生活基礎調査の概況)。共働きは今や1188万世帯と年々増加しており、専業主婦のいる641万世帯のほぼ倍近い(2017年労働政策研究・研修機構調べ)。

 私が核家族状態で育児、介護、夫の世話、という「多重ケア」状況に陥っているのは、決してめずらしい話ではないのだ。先述したように、ちょっと探せば、多重ケアに陥っている家庭はすぐに見つかる。それほど「レアケース」ではないのだ。(ぱんだ)