もちもちパンダ/

介護家族の悲鳴 その2

早朝からの農作業、往復8時間の遠隔介護

早朝4時半。既に父は起床して着替え、家の裏にある畑で農作業を始めている。私も父を手伝うため、作業着に着替えて畑に向かう。私は普段より睡眠不足の上に、昨日の疲労が残っていて、体が重たい。 

実家には、小学校のグラウンドぐらいの広さの田んぼと、その半分ぐらいの広さの畑がある。82歳のパーキンソン病患者に農作業ができるのかと思うが、できるのだ。いや、むしろ父にとってはこの農作業が唯一の生きがいであり、やめさせてしまったら冗談ではなく死んでしまうかもしれない。父は小さい頃からずっと田畑を耕し、農作物を作ってきたから(兼業農家だった)、作業は父の心身に染み付いている。老眼で手元は見えないはずなのに、細かい紐を結ぶこともできるし、肩関節や腰が痛いはずなのに鍬を振るう。今年も熱中症警戒情報が出る猛暑の中で、田んぼに肥料をまいたり、獣害対策のための網を張ったりもした。とてもではないが、普通の高齢者にできることではなないし、むしろさせてはいけないことのはずだろう。 

私はそんな父の思いを大切にしたいと思い、父より若い自分にできること(重たい作業道具や肥料運び、田んぼの肥料撒き、草刈りの手伝い、獣害対策用の網を張るための細かい作業など)を手伝っている。しかし、太陽の照り付ける中での慣れない農作業はとんでもなく疲れるし、疲労困憊する。今年40になる私だが、82歳の父に全くかなわない。大体いつも、私の方が音を上げて8時か9時ごろには家に戻る(夏の農家は、日中は作業はしない。早朝や夕方にするのが一般的)。 

息子はその間、認知症の母が見てくれている。母は孫と過ごすときは、認知症などどこかにいってしまったように元気になり、若返る。孫効果、恐るべしだ。元々責任感が強い母なので、孫に対して危ないことは絶対にさせないし、常に目を離さずにいてくれている。ただ、息子より母の体力がなくなることの方がほとんどなので、そうなると任せられなくなる。母が疲労する手前までは、息子の面倒を見てもらうことにしている。 

農作業から戻ったら昼ご飯の用意、他にも残っている片付け、諸々やることは山ほどある。農作業で疲弊した体を奮い立たせ、帰宅するまでの残った時間でできることを、優先順位をつけて片付けていく。 

実家は古く大きな家なので、無駄に広く、家財も多い。洋服もやたらと多い。しかしそれを誰が片付けるのかというと、私なのだ(最近はヘルパーも少し手伝ってくれている。しかし、国では「介護報酬で、要介護2までの『生活援助』を保険給付外へ」という議論が続いている。頼むからやめてくれ。遠隔介護の私がどれほど「生活援助」に助けられていることか!「生活援助」があるからこそ、両親の介護度は今以上に上がらずに済んでいるのだ)。一度整理してはどうかと両親に持ちかけたが、戦争を経験している両親は物を捨てることへの抵抗が強く、ケンカになった。以降、私は口出しをやめた。 

あっという間に昼になり、私は諸々の作業で疲れた体を少しだけ休める。これからまた4時間かけて運転するからだ。少しでも休んでおかなければたまらない。そして昼過ぎ、息子を連れて車に乗り、実家を出る。両親には「また再来週来るね」と言って。 

途中のサービスエリアで休憩せずに車を走らせれば、家まで3時間で帰ることができる。しかし、3歳児がチャイルドシートで3時間も我慢できるわけがない。途中のサービスエリアで降りて、アイスクリームを食べたり、遊んだりする。 

しかし、いつも困るのは、トイレなのだ。息子はオムツが外れかけているのだが、まだ大人用の便座に座れない(お尻が小さいから大人用便座では便槽に落ちる)ので幼児用便座の設置されているトイレでないと入れないのだ。しかし普段使っているサービスエリアには幼児用便座があるトイレが2つしかない。一般のトイレはたくさん設置されていて、行楽シーズンでさえトイレ待ちの行列など見たことがないほど空いている。それなのに幼児用便座のあるトイレには幼児連れの母親の行列が、必ず毎回できているのだ! ネクスコ西日本よ、幼児用便座なんて500円ぐらいなんだから、もう少し増やしてくれたっていいじゃないか。サービスエリアを使うのは家族連れが多いだろうし、それぐらいしてくれてもいいんじゃないか? 息子がぐずったら、農作業や家事で疲れた私は、16kgの息子を抱っこしながら行列を待つ羽目になるんだぞ。そして帰宅が遅くなるんだぞ。そして疲れた表情をした母親たちがこんなにがいっぱいいるんだぞ!! 以前よりマシと言われているらしいが、サービスエリアはまだまだ母親に優しくない! 

トイレを出て、サービスエリアの外の広場で息子としばらく遊ぶ。しかし『追いかけっこしよう』などと言われるのは本当に勘弁してほしい。父の尿失禁についての精神的ショックはまだ続いているし、睡眠不足だし、農作業や家の整理や親の世話、運転で、クタクタなのだ。 

それでもなんやかんやと遊んだ後、ようやく車に戻って家に帰る。途中、必ず渋滞する場所があるため、あくびをかみ殺して運転する。明るいうちに帰る方が、運転もまだ楽だ。 

そして私には、明るいうちに帰らなければいけない理由が、もうひとつある。(ぱんだ)