もちもちパンダ/

「介護ロボット」を見た!

「映画『タイタニック』で有名なあのシーンです! 船上でヒロインが手を広げて、後ろからディカプリオが彼女を倒れないように支えている。実際はこれをやっているわけです」。 

そう話すのは、兵庫県内にある特別養護老人ホームの職員。別に、レクリエーションで「タイタニック」の真似事をしているわけではない。彼が説明しているのは、最新式の腰痛防止用介護ロボットの使用感だ。厚労省は介護職員の負担軽減や腰痛予防のために介護ロボットの導入を奨励しており、導入する施設には国や自治体から補助金が出る。この施設も、補助を受けて腰痛防止用介護ロボットを一台導入し、現場で利用している。 

介護と腰痛の関係がイマイチピンとこないという方のために簡単に説明しよう。介護現場では、時には80kg以上あるような体格の大きい男性を、ベッドから椅子に座らせたり、車いすから車の座席シートに移らせたりすることがある。この時、介護職員が要介護者の全体重を支えることになるのだが、その際に最も負担のかかるのが腰なのだ。腹筋や背筋、体幹などをバランスよく使い、移乗のコツを掴んで慣れてくればできるようにもなってくるのだが、そう簡単な話ではない。元々やせ形で筋肉量が少なかったり、背が高くて腰を曲げる頻度の多い職員は腰痛を起こしやすい。介護現場ではほかにも、腰痛を起こしやすい姿勢をとることが多い。筆者は介護現場で働いたことがあるが、2回ギックリ腰を起こし、1週間入院したことがある。 

腰痛が原因で離職せざるを得ない介護職も多く、腰痛は国の検討会でも話題に上がるほどの課題になっている。また介護現場は慢性的な人手不足で、介護職の負担軽減のためとして国の介護ロボットにかける期待は大きく、今年度から厚労省内に「介護ロボット開発・普及推進室」を設置し、「介護ロボット担当参与」を配置するほどの気合の入り具合だ。(その意気込みがよく伝わる、厚労省にしては作り込まれたたサイト。こちら )

 実際の腰痛防止用介護ロボットだが、腰回りを包み込むような形の器具を中心に、上半身に幅10センチ程度のベルトを2本巻き付け、膝にも同様のベルトを巻き、器具と繋がっている。さらに体にシールを添付するのだが、脳波を拾うシステムが組み込まれている。これらの器具が連動して体の動きをサポートする仕組みになっている。職員が腰をかがめようとした時、システムが脳波を拾い、さらに腰に負担がかかりそうな姿勢になった時、ロボットが先述の「タイタニック」の力を発揮する。膝にあるベルトに力が入って全身を支える格好となり、それ以上腰を曲げられなくなる。最も腰に負担のかからない姿勢で、またベルトが体を支えてくれた状態で作業を行えるため、腰への負担が軽減されるという仕組みだ。あくまで腰の動きを支えるためのロボットであるため、例えば重いものを持ち上げるなどといったパワーを発揮するようなものではない。

 市の担当者に話を聞くと、今の介護ロボットの主流は大きく3つだという。

  1. 上述のように介護職の負担を軽減するもの(腰痛防止、お風呂用リフト、自動排せつ処理装置、認知症の方の見守りセンサーなど)
  2. 要介護者本人の体に装着し、自立を支えるもの(脚に装着して歩きやすくするもの、歩行アシストカーど)
  3. 会話型ロボット(AIを搭載。一人暮らしや認知症高齢者などの話し相手になる)

 ただ、どれも発展途上で改善の余地は大きいという。例えば上述の腰痛防止用ロボットは3キロという重さなので、装着自体が腰痛の引き金になる人もいるかもしれない。操作に慣れるまでにも時間がかかるという。そして何より高額だ。この施設が導入した腰痛防止ロボットは約300万円。半分は公的補助だが、半分は施設側が負担している。腰痛防止はどの現場でも課題のはずだが、そこに150万円出せるかというと、経営者も頭を悩ませるだろう。またその施設の職員数約110人に対し、介護ロボットは1台。全員が好きな時に使えるわけでもない。まだまだ介護ロボットの導入は模索中という段階なのだろう。(ぱんだ)